庵の案内へ 戻る ページトップ 鶯の和歌・俳句 「ウグイス」について 「鶯のほろ酔い」(落語)


鶯の郷
 杉篁庵の名にちなむ
  漢詩・和歌・俳句
杉篁庵の名ににちなむ漢詩や和歌を集めてみました。
これらの詩句に共感する杉篁庵主人の心境をかいま見ていただければと思います。

  雪意       宋  朱子
向 晩 浮 雲 四 面 平 
北 風 号 怒 達 天 明 
寒 窓 一 夜 清 無 睡
擬 聴 杉 篁 葉 上 声 
  晩に向かひ 浮雲 四面平かなりき
  北風 号怒して 天明に達す
  寒窓 一夜 清く 睡ること無く
  擬として 杉篁葉上の声を聴かむ

眠れぬまま、冷え込んでくる夜の静けさの中で、一人じっと座り込んでいる。
気がつくと裏山の竹藪を騒がし杉木立を吹きすぎる風の音が聞こえてくる。
雪の降る前の風の動きに耳すまし、雪の音に変わりゆく時を待ち続けていた。
(・擬:(詩語で)…つもりである。この詩では「擬(ぎ)として」と読んではいるものの、ここは「‥したい・‥しよう」になる。)
              

(たかむら)を染めて春の日しづみけり 日野草城
  日野草城(1901-56)俳人。。
  東京生(一九〇一〔明治三四〕〜一九五六〔昭和三一〕)。
  『花氷』、『青芝』、『昨日の花』、『轉轍手」、
  『旦暮」、『即離集』など


 竹里館     盛唐 王維
独 座 幽 篁 裏    
弾 琴 複 長 嘯    
深 林 人 不 知    
名 月 来 相 照    
  独り座す 幽篁(ゆうこう)の裏(うち)
  琴を弾じ複
(また)長嘯(ちょうしょう)
  深林 人知らず
  名月 来たりて相(あい)照す   五言絶句
この静かな奥深い竹林の中のあずまやにただ独り座り
琴を弾じ声を長く引きながら詩を吟じている。
世俗を離れた楽しい世界、
すなわち俗世間の利害の損得を捨てた世界を人々は知らないが、
名月だけは理解して奥深い林の奥までこの私を照らしに来てくれる。

 田園楽  盛唐 王維
桃 紅 復 含 宿 雨      
柳 緑 更 帯 春 煙      
花 落 家 僮 未 掃      
鶯 啼 山 客 猶 眠      
  桃は紅にして 復(また)宿雨を含み
  柳は緑にして 更に春煙を帯ぶ。
  花落ちて 家僮(かどう)未だ掃わず
  鶯 啼いて 山客(さんかく) 猶お眠る。
桃の花はくれないに咲き、ゆうべの雨をふくんでいっそうあざやかな色を見せ、
柳の芽はみどりに萌えいで、春のかすみを帯びてますますぼんやりとけだるい風情。
花びらが庭先に散りしいていても、召し使いはまだ掃除もしない。
うぐいすがしきりにさえずっているのに、山荘住まいの人はまだ夢うつつ。

通常の五言や七言の形を用いず六言詩。
単調なリズムが春ののどかさを表すのに役立っている。山客とは詩人自身のことか。のどかな春の一日を楽しむ詩人気持ちが伝わってくる閑適の詩。桃の紅に対して柳の緑、宿雨に対して春煙。花に対して鶯、家僮に対して山客が対語。前半の一句、二句は彩り華やかな春の景色をきれいな対句で詠い、後半は人物が、春の景色に溶けこんでおり、ここも対句になっている。
召使いまで主人の意をくんで、庭を自然のままにしておく。まるで一幅の絵を見るよう。

             

初夏行平水道中 陸游
老 去 人 間 楽 事 稀    
一 年 容 易 又 春 歸    
市 橋 壓 擔 蓴 糸 滑   
村 店 堆 盤 豆 夾 肥    
傍 水 風 林 鶯 語 語   
満 園 烟 草 蝶 飛 飛   
郊 行 已 覺 侵 微 暑   
小 立 桐 陰 換 夾 衣    

    初夏 平水の道中を行く
  老い去っては 人間 楽事 稀なり

  一年 容易 又 春 歸る
  市橋 担を圧して 蓴糸(じゅんし)滑らかに
  村店 盤に堆うずたかく 豆夾 肥ゆ
  水に傍そえる 風林 鶯は語語し
  園に満てる 烟草 蝶は飛飛たり
  郊行 已に覺ゆ 微暑を侵せるを
  小
(しばら)く桐陰に立ちて 夾衣を換う
年を取ると、世の中楽しみは少ない。しかし、一年はすぐ過ぎまた春が帰ってきた。
町の橋では商人に担がれた重そうなジュンサイを見てはその滑らかな舌触りを思い、
村の店では、皿にうずたかく積まれた莢豆の丸々と太っているのに驚く。
水辺の風に揺れる林では鶯が鳴き交わす声、畑一面の青草の上を蝶が飛び交う。
野歩きすると、もう暑さを覚える季節となった。
ちょっと、桐の木陰であわせを着替えようと立ち止まる。

 待酒不至      李白
玉 壺 繋 青 糸   
沽 酒 来 何 遅   
山 花 向 我 笑   
正 好 銜 盃 時   
晩 酌 東 窓 下   
流 鶯 復 在 茲   
春 風 与 酔 客   
今 日 乃 相 宜   
  酒を待ちて至らず 
 玉壺(ぎょくこ) 青糸に繋(か)
 酒を沽(か)ひて来たること何ぞ
 遅き山花
(さんか) 我に向ひて笑ふ
 正に盃を銜
(ふく)むに好き時
 晩酌す 東窓の下
(もと)
 流鶯
(りゅうおう) 復た茲(ここ)に在り
 春風と酔客
(すいかく)
 今日
(こんにち) 乃ち相宜(あいよろ)
            

その他、ウグイスに関して
  鶯声誘引来花下(句題和歌)
鶯のなきつる声にさそはれて花のもとにぞ我は来にける
      
【補記】後撰集には読人不知の作として載る。
         また『赤人集』『古今和歌六帖』にも。


  寛平御時きさいの宮の歌合のうた (古今)
鶯の谷よりいづる声なくは春くることをたれかしらまし
               大江千里

  梅花を手折りて、よめる (古今)
鶯の笠に縫ふてふ梅花折をりてかざさむ老かくるやと
       東三条左大臣 源常(ときは)
(鶯が青柳を撚より合わせた糸で笠に縫い合わせるという梅の花を手折って髪に挿そう、私の老醜が隠れもしようかと思って)

 源氏物語より
なく声もきこえぬ虫の思ひだに人の消つにはきゆるものかは
                     <螢宮>
こゑはせで身をのみこがす螢こそいふよりまさる思ひなるらめ
                     <玉鬘>

 古今集  紀貫之
鳴き止むる花し無ければ鶯も果ては物憂くなりぬべらなり
                                             
 大鏡 貫之の娘
勅なればいともかしこし鶯の宿はと問はば いかがこたえむ
  
 水原 秋桜子   
鶯や前山いよゝ雨の中     

        

「ウグイス」について
【鶯】
黄鳥(うぐいす) 匂鳥 歌詠鳥 経読鳥 春告鳥 初音 鶯の谷渡り 流鶯 鶯笛 

 早春、梅の咲く頃に平地で囀り始めることから春告鳥とも呼ばれ、親しまれている鳴禽である。代表的な囀りはホーホケキョで「法法華経」と聞きなして「経読鳥」とも呼ばれるが、ケキョケキョケキョと続けて鳴く場合を「鶯の谷渡り」という。また、その年に初めて聞く囀りを初音と云うが、ただ「初音」と云っても鶯の初音をさす慣わしとなっている。
 気温が上がるにつれ山岳地など冷涼な地域に移動して、囀りも一段と美しく頻繁になってくる。このように鶯といえば鳴き声がもてはやされるが、これは平地にいる時から姿を見かけることが稀な習性による。スマートな雀ほどの大きさで、羽色は地味でいわゆる鶯色とは別物である。ちなみに鶯色の名はメジロの羽色と間違って付けられたと言われる。
冬にチッチッと鳴くのは「笹鳴き」と云い冬の季語となっている。 
 

そういえば、洒落で葬式を「鶯」というのです。「泣き泣き埋めに行く(鳴き鳴き梅に行く)から」……祝いの家などの前を通り掛かり、どちらへと聞かれたら「鶯を聞きに」と答えるそうだ……


「鶯のほろ酔い」(落語)【粗筋】
 人の言葉を話す鶯を飼っていると評判の男、隠していたが噂を聞いた人がぜひ見せてくれとせまり、とうとう披露することになった。
 その日、「鶯宿梅(おうしゅくばい)」の掛け軸などで飾って、いよいよ鶯を出すが、この数日夜寒がきつかったので喉の具合が悪いと言い出す。そこで景気付けに一杯飲ませ、ほろ酔いで鳴かせようとするが、今度は酒で喉がかわいたので茶をくれという。湯が冷めていたので、酒の癇に使った湯を飲ませると、これが熱すぎた。びっくりした鶯は縁側の手水鉢の方へフラフラと飛んで行く。
「これこれ、どこへ行く」
「あんまり熱いので埋め(梅)に行きます」

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