「漢詩を作る」演習ノート               
この記事は、授業で使ったものをそのまま利用しています。

三年生最後の授業では、各自がそれぞれ漢詩を創作します。

一、漢詩とは
 まず、これまで学習してきたことをまとめてみましょう。

課題1「絶句」「律詩」の「字数・句数・押韻・対句」を表にまとめなさい。

詩形 字数 句数 押韻 対句
五言絶句        
七言絶句        
五言律詩        
七言律詩        

課題2「便覧」414ページの「代表的詩形」で、五言古詩と七言古詩の「句の構成」で句の構造・リズムを確認してください。
 ◎句のリズム  五言の場合=
            七言の場合=

 この他、近体詩のきまりには、平仄法と言う音調のリズムを定めたものがあります。今回は、この平仄法に従っての作詩は難しい所がありますから、省略し、説明のみにとどめます。
 例1 鹿柴  王維
   空 山 不 見 人
   但 聞 人 語 響
   返 景 入 深 林
   復 照 青 苔 上
例えば、 五言絶句の仄起式の平仄式は、次の通りです。
       ※ ○は平字で、 ●は仄字、◎は押韻です。
       1  2  3  4 5 
1(起句) ● ●  ○ ○ ●
2(承句) ○ ○  ● ● ◎
3(転句) ○ ○  ○ ● ●
4(結句) ● ●  ● ○ ◎

二、具体的手順
 この授業では、本当に超初心者が、曲がりなりにも(拙くとも)一応、漢詩といえるようなものが作れるようになる、ということを目標にしています。
 まずは、漢文の文構造〈語順=文法〉の復習から。
課題3 次の文・句を漢文で書いてください。
 山に登る。 歳月人を待たず。 我漢文を学ぶ。 師我に課題を与う。
 春はまだ来ない。 人気の無い山。 遥かに望む。

さて、取り敢えず、最初の目標は、『五言絶句〈五言古詩〉』です。

 例2   江雪  柳宗元
   千 山 鳥 飛 絶
   万 径 人 蹤 滅
   孤 舟 蓑 笠 翁
   独 釣 寒 江 雪

ここからも分かるように漢詩のリズムは五言の場合、2+3になっています
課題4 まず、どんな詩にしたいかを考え、そのイメージを表現した句=○○○の三字の句、をいくつか作ってください。
・        ・        ・          ・           ・
課題5 同じように、二字の句を幾つか作りましょう。その時に注意して欲しいのは一つのイメージ(主題)に統一できるような句を考えると言うことです。
・       ・       ・      ・      ・
課題6 次に二字の句を上に付け足して、「□□ □□□」の句を作りましょう。これを四句つなげて意味が通ればとりあえず形になったことになります。
@ □□の句をいくつか作る。
A □□と□□□を組み合わせて意味のある句を作る。
B Aを四つ作って、一編の詩とする。
 五言絶句は、20字です。5字を1句として4句あります。

 1(起句)□□|□□□  ・
 2(承句)□□|□□□  ・
 3(転句)□□|□□□  ・
 4(結句)□□|□□□  ・

 1行目を起句、2行目を承句、3行目を転句、4行目を結句といいます。また、句の切れ目は、上の2字と下の3字の間です。かならず、□□と□□□に分かれます。読む時も、□□、□□□と切って読みます。

 ところで、承句末と結句末は押韻するのでした。
ここで、押韻の説明をします。
 「押韻」は「韻をふむ」ともいいます。この「韻」とはどういうものなのかについて説明します。まず、「韻」とは、単純に言えば、その字のもつ響きのことです。詩の中で同じ響きを持った字をきまった位置にくり返して用い,音調を美しくととのえることを押韻と言います。この響きは全部で百六種類あり、すべての文字はそのいずれかの響きを持っています。また、この百六種類の韻は、その発声法から、・平声・上声・去声・入声、の四つに分類(これを「四声」といいます。)しています。さらに、「平声」は「上平声」と「下平声」に分けられています。(また、百六種類の韻は、それぞれ違う響きを持っていますが、中にはその響きが似ているものもあります。そこでこうした似ているものは、実際の「韻」は違うが、代用することが可能なものがあります。これを「通韻」といい、古詩ではよく見られます)これらの韻をまとめた表が詩韻韻目表とか韻字一覧表と呼ばれるものです。

▽漢詩や西洋の詩には古くから押韻のきまりがあり、頭韻(句の頭の字に押韻する)と脚韻(句の末尾の字に押韻する)があります。漢詩でいう押韻は脚韻を踏むことを言います。
◇孟浩然の『春暁』という五言絶句では
春 眠 不 覚 暁(春眠暁を覚えず)
処 処 聞 啼 鳥(処処啼鳥を聞く)
夜 来 風 雨 声(夜来風雨の声)
花 落 知 多 少(花落つること知る多少ぞ)
 1,2,4句末の「暁(gy)」「鳥(ty)」「少(sy)」が韻をふんでいます。漢詩の五言絶句では2,4句末に(この詩のように1句末にすることもある),七言絶句では1,2,4句末に押韻するというきまりがあります。
課題7 前掲の「例1鹿柴」「例2江雪」の押韻を指摘しなさい。
鹿柴=
江雪=
押韻について
 次にこの韻を揃えるにはどうしたらいいか、に移ります。課題4の三字の句を作るに際し、末尾の字を同じ韻にします。
「韻字韻目一覧表のプリント」を見て下さい。
 同じ韻とは、例えば、「夢」の韻は、上平韻の第1番目なので、
普通は「1東」と称し、「東」の部の韻となります。
韻番=1  四声=上平声一東
韻字=翁窮宮弓空洪功公攻工紅終充崇滝衷沖忠虫通東筒銅同童風豊雄融隆衆中凍夢(桐瞳洞熊楓濛蒙朦朧虹戎嵩躬穹聾瓏鴻叢蓬篷聡籠)
〈韻字韻目一覧表プリントとは並び順が違っていますが同じ。〉( )内の字は常用漢字外です。
  韻字韻目一覧表プリントはここには掲載していません
1番には右記の漢字が属しています。同じ韻ですから押韻として使えます。韻を踏むとは、韻を踏むべき所に、この中の字がそろっているということです。
これを辞書で確かめるには、どうするか。実際に漢和辞典によって韻を調べることに挑戦してみましょう。まず、最初は、「空」という字について調べてみます。すると、辞書には次のように出ています。  の□の中に東という字のはいった印があります。「平声の東韻」であることを示しています。  は平声   は上声   は去声  は入声を示します。□の中の字は一〇六韻を示しています。[四声] 漢字の一字一字には、声韻の他に、声調と呼ばれるものがあります。発音は同じでも、声調が違うと意味が全く異なることもあるため、特に重要になります。 声調を分類すると次の四つになるため、合わせて「四声」と呼ばれています。
 平声(ひょうしょう)・・・・高い音で平らに発音する。
 上声(じょうしょう)・・・・あがる調子。
 去声(きょしょう) ・・・・下がる調子。
 入声(にっしょう) ・・・・短く詰まった発音。(日本語の漢字音読みで末尾が「フツクチキ」になる字だと一般に覚えられています。ただし、旧仮名遣いです)
 それぞれの漢字が「四声」のどこに属するか、また、どのような「韻目」に属するかを知るためには、辞書か「韻目表」で調べるしかありません。日本語での漢字の発音はそもそも中国語とは異なりますし、漢詩での「四声」や「韻目」の分類は基本的には唐代の詩を基準にしています。
 中国では「宋」の時代に、『広韻』と言われる、漢字を二百六の発音に分類した韻書が出されました。しかし、二百六分類では多すぎるとの声を受け、「元」の時代に『平水韻』という、漢字を百六の発音に分類をした韻書が出ました。「明」「清」の時代の詩は、全てこの百六韻が基準として作られるようになりました。
 日本でも江戸時代以後はこの『平水韻』を基準にして漢詩が作られています。
 唐の時代の詩や、それ以前の古詩の韻を知るには『広韻』の方が理論的には正しいのですが、実用上は『平水韻』で破綻もないため、現在でも漢和辞典の多くは『平水韻』百六分類で表記してあります。
[平仄・平仄法・平仄式]
 四声の内、平板な発声の「平声」を「平」、上がり下がりの多い上声・去声・入声をあわせて「仄」と呼び、「平仄」と言います。近体詩は、この平字と仄字の組み合わせによって詩のリズムを生み出していますが、その規則(平仄法・平仄式)は細かく、緊密なものとなっています。H対句をのぞき今回はこれは無視します。
 平仄のきまり=近体詩を作る場合には、平字と仄字をどのような順番に並べるか、また、前後の平仄の関係などから、守るべき決まりがあります。簡単に列記します。@「二四不同」A「二六対」B「一三五論ぜず」C韻を踏まない句の末尾の字は、韻字と逆の平仄にします。D孤平を忌む。E下三平を忌む。F同韻を禁ずG反法・粘法H対句=律詩の場合には、頷聯(三句目と四句目)、頸聯(五句目と六句目)が原則として対句となります。I挟み平
構成=〔起承転結〕
「起句」と「承句」は、一つのまとまった文として作ります。
「起句」と「承句」が、ばらばらでは行けません。
「転句」は、文意の変化するところです。このように、「転句」は、「起承」の2句と、がらっと変わります。
「結句」は、まとめです。
 江戸時代末期に漢詩でも有名な頼山陽(1780-1832)は、本当かどうかは知りませんが、「起承転結」を教える時に、いつも、次の俗謡を示したそうです。内容は、出典により、多少相違があります。
 大阪(京都)本町 糸屋の娘 〔起句〕
 姉は18(16) 妹は14 〔承句〕
 諸国大名は 弓矢で殺す   〔転句〕
 糸屋の娘(娘二人)は目で殺す〔結句〕

課題8 ここまで学習したことをふまえて、絶句をを作りましょう。
 例えば、
 初詣北風冷  初詣 北風冷たく
 合掌飲甘酒  合掌して甘酒を飲む
 我祈必合格  我必ず合格せんことを祈り
 籠心買御守  心を籠めて御守りを買ふ (上声二五有)
                      
 今宵眺月影 今宵月影を眺む
 照映緋色光 照り映えるは緋色の光
 吾憂自器小 吾憂ふ自らの器の小さきを
 哭明望朝陽 哭き明かして朝陽を望む

課題9 押韻法(一二四句末押韻)をふまえて、七言絶句を作る。

 律詩の構成(対句法)は次のようになっています。
  首聯(一句目と二句目)
  頷聯(三句目と四句目)対句、
  頸聯(五句目と六句目)対句
  尾聯(五句目と六句目)
 律詩の構成要素は、呼び方は色々ありますが二句一単位で、首聯・頷聯・頸聯・尾(結)聯の四聯より成り立ち、句の構成要素は絶句と殆ど変わりありません。 絶句は一句毎に起承転結が割り振られていますが、律詩は二句毎に起承転結が割り当てられています。ただ律詩は頷聯・頸聯に対句を含むと言うことが絶句と異なる要素です。これを守れば比較的整った詩が大過無く出来ます。
 二つの対句は同じ形式でない方がよく、文法構造が同じならば、殆どの場合対句と成ります。
    □□ □□ □□□
     ⇔  ⇔    ⇔
    □□ □□ □□□
課題10 押韻、対句法=頷聯(三句目と四句目)、頸聯(五句目と   六句目)をふまえて、七言律詩(一句七字・八句)を作る。

課題1〜10の解答・作品を別紙に記し提出して下さい。


エッセイ 「生徒の漢詩」 
 
  「冬暁景」
  凄凄覚冬暁
  独眺寒煙景
  東空動陽躁
  西空留月静
  空残半月明
  心宿片雲影
  未定将来暗
  何日吾心幸  K・O
 律詩形式のこの漢詩は古典の授業で生徒が創作した作品の一つです。寒さに目を覚ますと朝日の昇る直前、月はまだ西に見えて時はまさに移ろうとしていた、受験直前の将来の全く見えない中、不安ながらも幸いを願うという気持が詠まれています▽他の作品を見ても卒業を前にしての生徒達の感慨は様々。▽ところで近頃、若者は社会の抱えるさまざまな問題に目を向けようとせず日々を楽しくとばかり考え、大人達は山積する問題を前にして閉塞状況にあきらめ顔だといわれています。確かに今社会の抱える問題を真摯に考え、議論し変革するという状況はなかなか持ちえません。しかし、だからこそ日常の中で気の付いたことをじっくりと考え、多様な価値観の混在する中にあって広い視野を獲得して自らが社会の中で生きる意義を見いだして欲しいと願います。二十一世紀の中核を生きる若者が未来の社会を自らが作り上げる気概と夢を持って。
  滿期新天地
  臨別贈折柳
  人世乃多楽
  愈盛梨舎友
 

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