クラス演劇の作り方マニュアル

文化祭においてクラスで演劇公演を行ったときの体験をもとにしながらまとめたものです。
この文章はAdvertising & Design Office プロペラシステムズ 学校演劇サイト「アオイソラ」を元にして編集加筆しています。剽窃の疑い多し、と思いますが、学級活動に使わせていただきました。
1.台本選定
 
とにかく情報を集め、みんなで読む。ビデオをみて選考の資料にするのもよいし、過去の上演台本を調べ、役者の人数・上演時間の条件を考慮して、みんながこれをやろうという気になるものを選定しよう。決まったら、作者あるいは出版社の公演の了解を取りましょう。時間的なところから台本のカット等手直しをする場合も必ず作者の了解も得てください。学校のクラス発表に使うといえば作者からのアドバイスがもらえたりします。
 実際はビデオを見てみんながやる気になったものを採用することが多いようですが、私のクラスの場合、最終的に候補として残った本を中心になる人たちが読みあって議論。結局、役者をやった生徒が本屋で見つけてきた台本に決まりました。

2.代表者と演出の選定
 演出があやふやではその演劇はまとまりませんし、完成までの道のりも険しくなっていきます。全体を見渡す力を持ち、かつ演技指導や役者間各係との調整をする重要なやポジションです。舞台に乗るまで、計画通りに行くなんて事はありません。思わぬ障害が必ずあるものです。人間関係の難しさに悩みもだえることもあるでしょう。そのときのまとめ役になるというつもりで選びましょう。

2.係決め
 役者とスタッフの係決めはきちんとしておくこと。準備できる機材の量や話の舞台設定によって必要な係や人数は変わってくるでしょうが、どの係にも中心になって係をまとめてくれる人がいると助かります。舞台で自己表現しなくても、道具を作ったり、背景を描いたりして、クラス全体でやることは多岐にわたります。各々が得意な分野で役割を担い、みんなが参加できるようにすること。

3.配役
 台本が決まったら配役です。役者希望の人たちに自分で決めさせるという方法ですんなり決まれば何も言うことはありません。配役は、適所適材…といったら言葉が乱暴ですが、その人が一番活きる役を。自分たちで決めようとなると、よく問題になるのが役の取り合い。そうなったときはオーディションで決定することにしましょう。もちろん最初からオーディションを行うことを公言しておいて、役者を募る段階からモチベーションを高めて、というのが一番かもしれません。もちろん主役であっても、端役であっても、その演劇をつくるためには、どの役も欠かせない存在です。いい加減な決め方をしないこと。オーディションや実際の演技に入ってみると、思いがけないキャラが発見できる楽しみがあります。基本はせりふがよく聞こえること、と言って単に「大声だ」というだけが役者の条件ではありません。

4.本読み(読み合わせ)から稽古へ
 配役が決まったら読み合わせです。この本読みから稽古の第一歩が始まります。自分の役のセリフを台本を見ながら、できるだけ感情を込めて読み合わせていきます。ト書きは役以外の人が読むのがいいでしょう。本読みでは、役者以外のスタッフも同席し芝居のイメージをつかむことが重要です。この段階から照明や音響の効果、舞台装置、衣装の構想を膨らませていきます。役者は、セリフを追いながら、役の性格やセリフの背景などを膨らませていきます。
 役者同士で互いの人物像を語ったり、台本に書いてないその人物の趣味とか生い立ちとかしぐさとかを語ったり実演したりして人物像を確立していくことが練習になります。
 この本読みの段階から、発声練習を取り入れたい所です。発声だけでなく、柔軟体操や腹筋などの筋トレも時間をかけたいところですが、練習時間の限られた中では難しいところ。最低限、発声だけでもしっかりやってください。発声や柔軟などの基礎練習の具体例は、別にプリント〔省略〕します。発声の歌詞?などは、プリントして台本と一緒にとじておいてもいいでしょう。

5.演出構想
 演出家はやろうとする芝居にどんな雰囲気を与えていくのか、視覚的、聴覚的に、観客にどんな印象を与えるのかというような、一貫した演出のトーンを頭の中に描いておきます。細かい演技指導はもちろん必要ですが、芝居全体を俯瞰して舵取りする力が求められます。音楽に例えれば、イントロがあってAメロがあってサビがあって…というような構成が、やはり演劇でも当てはまるのです。イメージした演出のトーンによって舞台美術や衣装、音響、照明、そして役者の演じ方も方向が決まっていきます。同じ台本でも、例えばドラマチックにしたりコミカルにしたり、語り物にしたりダンスを多用したりと…演出の仕方によって幾通りも見せられます。台本を自分なりに充分に解釈し、その芝居の始まりから終わりまで演技や効果を含めて全て頭の中でシミュレートできるようにしておくべきです。演出のトーンが決まり、芝居全体の構想がまとまったら、そのイメージにそって各係に指示をします。舞台美術のイメージをスケッチし、どんな舞台を作るのか視覚的に確認します。設計や材料確保など、各係りに任せる部分、予算をたてて準備する部分など、よく連絡を取り合ってすすめます。制作場所、道具の貸し借り、各係りの責任者など、制作行程の細かい所まで配慮するのも大事。特に、後始末を含め、管理責任には十分な確認、注意。演出係はいわば監督でもあります。
※人的余裕がある場合、スケジュール管理、制作管理を担当し、活動全体の指示をしていく「監督」を置くほうがいいでしょう。

6.◆大道具◆
 大道具は、制作物の構想や設計をしっかり描くことが大事です。大きさやデザインをアイディアスケッチを描きながら検討し、材料と予算などを、演出とよく連絡取り合って無理なく制作できるよう細かく設計します。設計が決まったら材料を準備します。
 まず教室の大きさを測り観客席と舞台の大きさと配置を定めます。照明の位置、音響の係をどこにおくか、役者の出入りはどうなるかと言ったことを考えながら、構想を練ってください。独りよがりで作ってしまうと後の修正が大変です。

7.◆衣装◆
 演出や役柄のイメージをよく把握して衣装デザインをしなければ、ちぐはぐなものができあがってしまいます。演出と綿密に打ち合わせをして、役者がより引き立つようなものを考え、しっかりとデザイン画を描いていきます。デザインばかりが先走り、役者が動きづらかったり、ちょっとのことでこわれたりするものにならないように気をつけ、作りづらいデザインも避けたいもの。演出と役者と連携して作成すること。また、小物、アクセサリーなどは衣装係と小道具係で準備するものを分けておきます。

8.◆小道具◆
 小道具係は演技にディティールを与えるアイテムを準備していきます。演出係とミーティングして、必要な物をピックアップ、その上で本当に必要な物を選択して用意します。実物を準備できるものがなければ、イミテーションを制作することになります。そうなると、どのように作るか、材料はなにを使うか、工作の力も必要になってきます。大道具同様、構想設計をきっちり決めてから取りかかりましょう。また、舞台の雰囲気を効果を高める道具や装置を準備するのも小道具の役割です。舞台に風を起こすための扇風機だとか、紙吹雪だとかもそれに入るでしょう。ただし小道具はあくまでも小道具であり、あまりにその存在が目立ちすぎて、演技をじゃまするものであってはいけません。演出との綿密な打ち合わせが大事、というわけです。そして大道具同様、制作場所や後始末の管理には気を配りこと。演技に直接使う小道具は役者が使い慣れるように早めに用意すること。

9.◆照明◆
 まず上演会場でどのような照明機材が使えるのかの確認。それから演出と一緒に照明計画を立てます。シーンごと転換ごとにどんな照明を当てるのか台本に書き込んでいくのですが、色や付け方消し方、誰を中心に当てるのかなど、できるだけ細かく書いていく。計画が立ったら、役者の立ち稽古に参加して、実際に照明を当ててみる。オンオフはフェードイン、フェードアウトでじわじわとおこなったり、カットイン、カットアウトでパッとつけたり消したりというテクニックや、色を使った効果もしっかりシミュレーションしておきたいところです。
 音響とのきっかけあわせも必要です。どのセリフで照明をつけるのか、音先行なのか、明かり先行なのかなど、自分たちや役者が操作したり動いたりする「きっかけ」(つまりタイミング)を煮詰めていきます。きっかけの打ち合わせができたら、立ち稽古で役者も交えて実際練習してみること。照明や音響はこのきっかけ練習が命です。必要ならば、音響と照明と演出だけで「きっかけ」だけをなぞっていく練習、あるいはそこに役者も交えたきっかけ練習もやってみては。

10.◆音響◆
 演出と音響計画を立てます。まずシーンごとに、音楽や効果音が必要な箇所をチェックし、演出イメージと照らし合わせながら、どんな感じの音楽を探していけばいいのかリストアップしていきます。ただやたらとたくさん音を入れるのは割けたいところ。音は引き立て役。それが表に出過ぎないようにしたいところです。音響は芝居のイメージを大きく左右します。次のことに気をつけたい。
・誰もが知っている曲はなるべくつかわない
・歌詞入りの曲は使わない
どうしても歌詞入りの曲を使う場合は、セリフがない場面や転換、エンディングなど、その効果をよく考えて。
・流しっぱなしにしない
ひとつのシーンの間、同じ曲を同じ音量レベルで流しっぱなしにしてしまうと、なんとも散漫なイメージを与えてしまいます。役者が演技に抑揚、変化を付けても、音楽が一辺倒ならそれも半減です。
セリフをきっかけに音楽をを切ったり音量レベルを変えたりするなど、楽をせず役者と同じ気持ちで舞台に向かわなくてはいけません。ただ、やたらと音量が上がったり下がったり変化が激しいのも、逆に耳につきすぎてうるさくなります。
音はあくまでも演技の補助役であるということを忘れてはいけません。効果音についても同じです。何をどう使うか、演出との打ち合わせ、役者とのタイミング、音集めから計画的でないと間に合わなくなります。候補曲・効果音を録音したら、立ち稽古やきっかけあわせでどんどんかけてみて、演出の意見も聞きながら絞り込んでいきます。曲が決まったらMDやCDかカセットテープかパソコンを使って本番用に録音し直します。使いやすいように順番やCDの入れ替えのタイミングを考えて編集します。予期せぬトラブルも想定して、バックアップとして他の機器が使用できる環境も用意しておきたい。

11.立ち稽古
 最初は台本を持ったままでもかまいません。演出の指示のもと役者はセリフを発しながら立ち位置と動きを確認します。シーンごとに区切って練習しましょう。練習に取れる時間とセリフ量にもよりますが1週間後くらいには全員台本なしで何とかできるようにしたいもの。台本を持っているとそれに頼ってしまって、どうしてもセリフが自分のものになりません。また動きも制限されるので体の細かい動きを作れません。早い時期に台本なしの練習に入れるようにしましょう。
 発声練習を充分にやって、声がしっかり出るようにしてください。舞台の上に立った時、どんなにいい衣装を着ていても、どんなに動きにキレがあっても、声が小さくセリフが聞き取れないようでは何にもなりません。はじめての演劇ならば、まず声の大きさ、セリフの届き具合を重視して下さい。それがあって次に体の動きや動線、段取りになります。限られた練習時間内では、まずそういうった芝居の最低限のカタチをつくっておいて、その後残された時間で言葉の抑揚や感情の込め具合をどれだけ高められるか、ということになるでしょう。
 演出家は常に観客からどう見えるかを意識して役者にアドバイスすること。役者は自分がどう見えるかなかなか分かりません。
 この練習の中で、役者のスケジュールがあわなかったり、思い入れの違いやイメージの違い、思うような仕上がりになっていかないといったことで役者間や係とのトラブルが生まれます。トラブルがないなどということはあり得ません。それぞれ個性ある人が集まり違うことをしあって一つことを実現しようというのですから。
 うまくいかない時はお互い腹を割って議論しあうこと、我慢はよくありません。みんなで泣き合って何とか克服できるものです。この時心がけることは、お互いの話をよく聞く姿勢です。

12.通し稽古
 各シーンの立ち稽古がおおよそできあがったら、通し稽古をして、全体の流れを点検します。はじめのうちは各シーンのつながりの部分を中心に…つまりシーンの途中部分は割愛して、立ち位置の大きな変化があるところや、舞台転換などのドタバタしがちなところを中心にチェックし、気になる点があったら止めて確認しながら進めます。止めながら全シーン通してやるので、練習時間をたっぷりとれるよう工夫して下さい。どうしてもうまくいかない部分があれば、その部分だけあらためて練習するようにします。転換やつながりがうまくできるようになったら、各シーンも割愛することなく、全編通して、文字通り「通し稽古」をやっていきます。途中で止めなくても最後まで通れるまで反復し、本番の流れを徹底させます。役者のセリフ回しはもちろん、表情や体の動きを仕上げていくのもこの練習の時です。また、準備できる小道具や大道具があればなるべく本番同様使用するようにし、音響や照明もきっかけあわせをしていきます。この通し稽古をやった回数だけ、皆自信がついていくものです。

13◆スケジュール表・通信・連絡板◆
 まずスケジュール表を作る。全体と各係のとを貼っておくと、みんなの活動状況が見えて、お互い動きやすくなります。練習時間が足りない、ミーティング時間が足りない、全員集まれない…いろいろとジレンマも出てくると思います。伝えたいことが口頭だけでうまくいかない場合は、通信・連絡板を発行・設置して、足りない部分を補うといいでしょう。これはかなり有効な手段です。現在の進行状態やこれからのスケジュール、重点的に練習する箇所など文章にすれば、団員の間に共通の意識が保てます。役者の動きなども図示してあげるとわかりやすいと思います。

14◆宣伝◆
 
15.リハーサル
 公開リハーサルの前に、役者だけでなく舞台スタッフも全員参加させます。音響や照明は本番で使える機材を事前に確認し、操作方法などを確認しておきます。リハーサル当日になってバタバタしないように準備が必要です。衣装は本番で使う衣装を役者に着せます。メイクをする場合も同様です。着替えやメイクには時間がかかりがちですから、早めに取りかかりリハーサル開始時間を遅らせないように気をつけます。舞台転換がある場合は誰が何を撤去し搬入するのか細かく係わけし、その道具類をどこに持っていくのかなどミーティングしておくこと。転換を素早く行うにはそういった準備が必要です。また幕は誰が開閉するのかなど、細かいところを詰めていくのも忘れないで下さい。
 演出はリハーサルの様子を見ながら、問題点やよかった点を記録しておきます。リハーサルが終わったらそれをもとに必ずミーティングして下さい。やりっぱなしでは進歩しません。できればビデオカメラを回し映像で記録しておくと、役者は自分の演技の問題点を把握しやすいと思います。リハーサルで問題があったところを中心にシーン練習を行い、練習日程の許す限り2〜3回リハーサルができるといいでしょう。

16.本番前日
 役者の体調管理を徹底させましょう。舞台に穴が開くと大変です。前日は余裕を持って、細かい確認だけの練習で終われることが理想です。スタッフは大道具小道具や衣装などの管理をきちんと行い、無事に本番を迎えられるようにします。ここまで充分に練習、リハーサルを積んできたと思います。

17.本番
 役者はできるだけ早めに着替えに入ります。幕が開くまでに余裕を持って落ち着く時間も必要です。練習でやってきたことを思い切って出してくるようにテンションを高めます。あとはお互いを信じあって、幕が開くのを待ちましょう。せっかくの公演ですから、ビデオカメラにおさめることも忘れないで下さい。できれば扱いに慣れた人にお願いした方がいいでしょう。さあ、本番。

18.公演後
 トラブルも多々産まれたかも知れませんが、最後にみんなでカタチにできた、その感動と成果を共感したいものです。       

19◆係り一覧【例】◆
      1.代表者    2.監督   3.演出 
      
(1〜3は兼ねることも多いが、忙しいので役割分担した方が無難)
      4.CAST
      5.舞台・大道具   6.小道具     7.衣装
      8.台本作成     9.音響      10.照明
      11【装飾】  外壁    垂れ幕    立看板
      12会計・事務  
      13パンフ・チケット・ビラ・ポスター  14・団扇    
   

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