目次　・花と樹木の詩

梅　　・雑詩王維　・梅花高啓　・寒夜杜秉　
　　　・�C平樂李清照　・梅花王安石 ・雪梅盧梅坡・春暁猛浩然　
桃　　・桃夭詩経　・代悲白頭翁
柳　　・東欄梨花蘇軾　
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　梅　

　　雑詩　　　　王維
君自故郷來　　君　故郷より來たる　　　　　　　
應知故郷事　　應（まさ）に故郷の事を知るべし
来日綺窗前　　来たる日　綺窓（きそう）の前
寒梅著花未　　寒梅　花を著（つ）けしや未だしや

雜詩三首のうちの二首目。「ここへやってくる時には、美しい飾りのある妻の部屋の窓の前にある早咲きの梅は、花をつけていただだろうか。それともまだ」と、直接に妻の状況を尋ねるのではなく、その部屋の前の梅のようすを尋ね、梅の気品と妻への思いを詠う。なぜか好きな詩。次にあげるのが三首目。

已見寒梅發　　すでに寒梅（かんばい）の発（ひら）くを見（み）
復聞啼鳥聲　　また啼鳥（ていちょう）の声（こえ）を聞（き）く
愁心視春草　　愁心（しゅうしん）　春草（しゅんそう）を視（み）て
畏向階前生　　階前（かいぜん）に向（むか）って生（しょう）ぜんことを畏（おそ）る


　　梅花　九首（一）　　　高啓
瓊姿只合在瑤臺　　瓊（けい）姿（し）只合（まさ）に瑤（よう）臺（だい）にあるべきに
誰向江南處處栽　　誰ぞ江南に向いて処処に栽うる
雪満山中高士臥　　雪満ちて山中高士臥（が）し
月明林下美人来　　月明らかにして林（りん）下（か）美人来たる
寒依疎影蕭蕭竹　　寒は依る疎（そ）影（えい）蕭々たるの竹
春掩残香漠漠苔　　春は掩（おお）う残香漠々たるの苔
自去何郎無好詠　　何郎去りて自り好詠無し
東風愁寂幾回開　　東風愁（しゅう）寂（せき）幾回か開く

玉のような美しい姿をした梅花は月の仙宮にあるべきなのに、誰がこの梅の木を江南の処処に栽えたのだろう。
　梅花が咲くと雪が山を真っ白にしたように見え、袁安の故事から高士が梅花の雪中に臥しているように思われる。
　月明らかな時には趙師雄が樹下に芳香の美人と共に酒を酌み，醒めれば梅花の大樹下に横たわっていたという故事を思って梅花を見る。
　寒中に竹は蕭蕭として梅枝の疎影により添い、春　吊残の香が一面の苔を被っている。
　梅花を賞賛した何孫が去って以来、梅に就いての好い歌は生まれない。
　ただ東風は年ごとに愁いを帯びて吹くばかり、梅の花は何回咲き、また散ったであろう。
　　・瓊姿　玉のような美しい姿。梅花。
　　・瑤臺　月世界。
　　・第三句　汝南先賢伝の「時に大雪が地に積もり丈余りとなったため、洛陽の知事が袁安のことを心配して袁安の門に至ると、路を行くものも無い。袁安は己に死んだのだろうかと雪を除かせて入戸した。すると袁安が僵臥してた。何をか以って出ないのかと問いかけると、袁安曰く『大雪には人は皆餓えるもの，上宜干人（干人に宜しくないものです）』以って賢を為すと令し、挙げて孝廉と為した。」による。
　　・第四句　柳宗元、龍城録の「隋の趙師雄が羅浮に遊び、一美人に逢う。なんともいえない芳香を放っている。依って相携えて談笑して酒を飲んでいると、一人の緑衣の童子が来たりて歌い舞う。 酔い醒めて起きてみれば、身は大きな梅樹の下にあり、樹上には翠鳥の鳴く声がする。さては夜前の美人は、梅の精・童子はかわせみの精であったか」の故事による。古来、梅樹の下に美人を描いて「羅浮仙」という。翠鳥は、そにどり・かわせみ。
　　・何郎　梅をよく詠んだ六朝の何遜のこと。

　　　　　　　　
　　寒夜　　　杜秉（南宋）
寒夜客来茶当酒　　寒夜客来たりて　茶を酒に当つ
竹爐湯沸火初紅　　竹爐　湯は沸きて　火初めて紅なり
尋常一様窓前月　　尋常一様　窓前の月
纔有梅花便上同　　纔（わず）かに梅花有りて便（すなは）ち同じからず

窓の外にはいつも通りの月、でも梅の花がほんの少しほころんでいるのが、昨日と違うところ。

　　

　�C平樂 　　李清照
年年雪裏　　　　年年雪の裏（なか）に、
常插梅花醉　　　常に梅花を插して醉ひき。
揉盡梅花無好意　梅花もみ盡して好き意（おも）ひ無く、
贏得滿衣�C涙　　贏（か）ち得たり、衣に�Cき涙滿つるを。
今年海角天涯　　今年　海角　天涯、
蕭蕭兩鬢生華　　蕭蕭として兩鬢に華（しらが）生ず。
看取晩來風勢　　晩來の風勢を看取る、
故應難看梅花　　故に應に梅花を看るに難（かた）し。

新婚のころは毎年、夫と二人雪の中へ風雅を求めて、出ていき、頭には梅の花を飾り、その梅の香に酔い、うっとりといい気持ちになった。
　夫が単身赴任して別居していた時は、一人梅の花をもてあそんでいても、楽しくなく、手に入れたのは、衣をそっくり清らかな涙で濡らしてしまう悲しみばかり。
　今年、夫と死別して、地の果て天の涯を彷徨うようにると、寂しくも両鬢に白いものが混じるようになった。
　たそがれの風の様子を見て取ると（時間がおそくなってからの風の様子を見、また、人生のたそがれになっての私の置かれた情勢を考えると）、それゆえ、梅の花を見るのは、耐え難いのです。

　　�C平樂　詞牌の一。詞の形式吊。
　　海角天涯　海の彼方、地の果て。天の涯。
　李清照は、両宋時代の女流詞人で、極めて人気のある詞人。この詞は梅に自分の人生を重ねて詠っています。若い時は分からなかった心境が近頃私は深く共感できます。醉花陰九日（薄く濃く霧立ち込むる日永をかこちつつあれば、金獣（ひとり）に燻る瑞腦も消え果てにけり・・・漢詩鑑賞�Cに掲載）という詞の朗読を聞いてからこの詞人が好きになりました。

　梅花　　　　　　　北宋　　王 安石
牆角数枝梅　　牆角（しょうかく）数枝の梅
凌寒独自開　　寒を凌いで独自に開く
遙知上是雪　　遙に知る 是れ雪ならざるを
為有暗香来　　暗香（あんこう）の有りて来たるが為なり 　

垣根の隅の梅の数本の枝が、
寒さをついて花を咲かせている。 　　
遠くからでもその白い花が雪でないとわかるのは、 　　
ほのかな香りが漂ってくるからです。　 　

　　雪　梅　　　　盧梅坡
梅雪争春未肯降　　梅と雪と　春を争ひて未だ降るを肯んぜず
騒人擱筆費平章　　騒人　擱筆して平章を費やす
梅須遜雪三分白　　梅は須らく雪に三分の白を遜(ゆず)るべし
雪却輸梅一段香　　雪は却って梅に一段の香りを輸（しゅ）すべし


　春暁（しゅんぎょう）　　猛浩然　　
春眠上覚暁　　春眠暁を覚えず
処処聞啼鳥　　処処（しょしょ）に啼鳥を聞く 　　
夜来風雨声　　夜来（やらい）風雨の声　　
花落知多少　　花落つること知る多少 　　

この花はなんの花？　桃・李・やっぱり梅？

　桃　　　　　　　
　桃夭（とうよう） 　雑体古詩　「詩経《
桃之夭夭　　桃の夭夭（ようよう）たる
灼灼其華　　灼灼（しゃくしゃく）たる其（そ）の華（はな）　
之子于帰　　之（こ）の子于（ゆ）き帰（とつ）ぐ
宜其室家　　其の室家（しっか）に宜（よろ）しからん
桃之夭夭　　桃の夭夭たる
有賁其実　　賁（ふん）たる其の実有り
之子于帰　　之の子于き帰ぐ
宜其家室　　其の家室に宜しからん
桃之夭夭　　桃の夭夭たる
其葉蓁蓁　　其の葉蓁蓁（しんしん）たり
之子于帰　　之の子于き帰ぐ
宜其家人　　其の家人に宜しからん
　・注「賁」は原詩は草冠が付く。

桃の花は若々しく美しい 紅く燃え立つその花よ
　その麗しい桃の花さながらの娘は嫁ぎ行き 仲むつまじく暮らすだろう
　桃の花は若々しく美しい ふっくらとしたすばらしい実よ
　その桃の実さながらの娘は嫁ぎ行き 仲むつまじく暮らすだろう
　桃の花は若々しく美しい 葉は生き生きと茂っている
　その艶やかに茂る桃の葉さながらの娘は 嫁入り先で仲むつまじく暮らすだろう
　【桃夭】「夭」は若くしなやかなさま。若々しい娘をみずみずしい桃にたとえる。嫁ぐのにふさわしい年頃。嫁入りどき。婚期。大辞林より。
　「室家」「家室」「家人」はほぼ同じ意味で、「華」と「家」、「実」と「室」、「蓁」と「人」と脚韻を踏む。
　桃の花や実・葉の様子に、これから嫁いでゆこうとする娘の姿を重ねて詠う。
　「風興の詩」の一首。四言古詩（しごんこし）。
　　・風（ふう：各国の民謡）
　　・興（きょう：自然の風物に寄せて比喩的に歌い、後その真意を述べる）

　　　代悲白頭翁　　　　　劉希夷（りゅう　き　い）
　　　　　　白頭を悲しむ翁に代りて
　洛陽城東桃李花　　洛陽城東　桃李の花
　飛來飛去落誰家　　飛び來り飛び去って　誰が家に落つ
　洛陽女児惜顔色　　洛陽の児女は顔色を惜しみ
　行逢落花長嘆息　　行く行く落花に逢うて長嘆息す
　今年花落顔色改　　今年　花落ちて　顔色改まり
　明年花開復誰在　　明年　花開いて　復た誰か在る
　已見松柏摧為薪　　已（すで）に見る　松柏の摧（くだ）かれて薪（たきぎ）と為るを
　更聞桑田変成海　　更に聞く　桑田の変じて海と成るを
　古人無復洛城東　　古人復た洛城の東に無く
　今人還対落花風　　今人還（なほ）も対す落花の風
　年年歳歳花相似　　年年歳歳花相ひ似たり
　歳歳年年人上同　　歳歳年年人同じからず
　寄言全盛紅顔子　　言を寄す　全盛の紅顔子
　応憐半死白頭翁　　応に憐れむべし　半死の白頭翁
　伊昔紅顔美少年　　伊（こ）れ　昔　紅顔の美少年
　公子王孫芳樹下　　公子王孫　芳樹の下
　清歌妙舞落花前　　清歌妙舞す　落花の前
　光祿池台開錦繍　　光祿の池台　錦繍を開き
　将軍楼閣画神仙　　将軍の楼閣に神仙を画く
　一朝臥病無相識　　一朝病に臥しては相ひ識る無く
　三春行楽在誰辺　　三春の行楽　誰が辺にか在る
　宛転蛾眉能幾時　　宛転たる蛾眉　能く幾時ぞ
　須臾鶴髪乱如糸　　須臾にして鶴髪乱れて糸の如し
　但看古来歌舞地　　但だ看る　古来歌舞の地
　惟有黄昏鳥雀悲　　惟だ黄昏に鳥雀の悲しむ有るのみ


　柳　

　和孔密州五絶　東欄梨花　　　　蘇 軾
　　　孔密州の五絶に和す　　東欄の梨花
梨花淡白柳深青　梨花(りか)は淡白にして　柳は深青なり
柳絮飛時花満城　柳絮(りゅうじょ)飛ぶ時　花は 城に満ちたり
惆悵東欄一株雪　惆悵(ちゅうちょう)す　東欄　一株(いっしゅ)の雪
人生看得幾清明　人生　看(み)得るは幾(いく)清明(せいめい)か

・柳絮＝白い綿毛をもった柳の種子が雪のように散るさま。　・惆悵＝恨み嘆く、いたみ悲しむこと。　・一株雪＝雪のような白い花を咲かせている一本の梨の木。 　・清明＝二十四節気の一。三月節気。今の四月五日頃。万物清く陽気になる時期という意。

　　　
　春思二首 其一 　賈至（かし）
草色青青柳色黄　草色　青青として　柳色　黄なり
桃花歴亂李花香　桃花　歴乱として　李花　香（かんば）し
東風上爲吹愁去　東風　為に　愁いを吹き去らず
春日偏能惹恨長　春日　偏（ひと）えによく恨みを惹（ひ）きて長し


　古別離 　韋莊（いそう）
晴烟漠漠柳?　?　晴烟（せいえん）漠漠（ばくばく）として　柳　??（さんさん）たり
上那離情酒半酣　離情を那（いか）んともせず　酒　半ば酣（たけなわ）なり
更把玉鞭雲外指　更に玉鞭（ぎょくべん）を把（と）りて雲外を指（ゆびさ）せば
斷腸春色在江南　断腸の春色　江南に在（あ）り

・?＝（參＋毛）??さんさん＝毛などが長くのびたさま。物が細長く垂れ下がるさま。　・酣＝酔で酒に十分に酔うこと。

　
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