漢詩鑑賞A 庵の案内へ 戻る ・・・・雪の降る風景・・・

雪降る空の景色を 絵にしてみたく、こんなものを作ってみたが、さて、雰囲気はありやなしや。
白居易に「遺愛寺鐘欹枕聽(遺愛寺の鐘は枕をそばだてて聴き)香爐峰雪撥簾看(香爐峰の雪は簾をかかげてみる)の句あり、ちなみて簾を上げ、様々の雪を垣間見む。

 冬      康海
雲凍欲雪未雪  
雲凍り雪ふらんと欲せども未だ雪ふらず
梅痩將花未花  
梅痩せて将に花さかんとして未だ花さかず
流水小橋山寺  
流水 小橋 山寺
竹籬茅舎人家  
竹籬 茅舎 人家
 降りそで 降らぬ 雪の雲
 咲きそで 咲かぬ 梅の花
 川に 小橋の 山寺や
 竹の まがきの 藁屋あり

                 


  江雪     柳宗元   
千山鳥飛絶   千山 鳥の飛ぶこと絶え
萬徑人蹤滅   萬径 人蹤じんしょう滅す
孤舟蓑笠翁   孤舟 蓑笠さりゅうの翁
獨釣寒江雪   独り寒江の雪に釣る

 山も原も動くものなく 雪埋み 釣り糸垂るる翁の舟も

                
  客中       鐘梅心
雪意沈沈近歳除
  雪意 沈沈として 歳除に近く
客懐渺渺正愁予  客懐 渺渺として 正に予を愁いせしむ
梅花痩尽相思苦  梅花 痩せ尽きて 相い思ふこと苦し
閑撥炉灰学草書  閑に炉灰を撥して 草書を学ぶ

  
雪詩八首其一    蘇軾
石泉凍合竹無風  石泉 凍合して 竹に風 無し
夜色沈沈萬境空  夜色 沈沈として 万境空し
試向静中閑側耳  試みに静中に向けて閑かに耳を側け
隔窗撩亂撲春蟲  窓を隔てて撩乱する春虫を撲つ
   

                   
  
春雪      柳宗元
新年都未有芳華
 新年の都 未だ芳華あらず   
二月初驚見草芽 二月初めて驚く 草芽を見るを
白雪却嫌春色晩 白雪却って嫌ふ 春色の晩きを
故穿庭樹作飛花 故に庭樹を穿つて飛花と作す

 左遷至藍關示姪孫湘    韓愈
    左遷されて藍関に至り姪孫湘に示す
一封朝奏九重天 一封朝に奏す 九重の天
夕貶潮州路八千 夕べに潮州に貶せられる 路八千   
欲爲聖明除弊事 聖明の為に弊事を除かんと欲す   
肯將衰朽惜殘年 肯(あ)えて衰朽を将(も)つて残年を惜しまんや   
雲横秦嶺家何在 雲は秦嶺に横たわつて家何にか在る   
雪擁藍關馬不前 雪は藍関を擁して馬前まず   
知汝遠來應有意 知る汝が遠く来たる応に意有るべし   
好收我骨瘴江邊 好し我が骨を収めよ瘴江の辺


  夜 雪    白居易
已訝衾枕冷  すでにいぶかる衾枕の冷ややかなるを
復見窗戸明  また見る 窓戸の明らかなるを
夜深知雪重  夜深くして 雪の重きを知る
時聞折竹聲  時に聞く 折竹の声                
 
  雪後懐家兄西樵(雪後 家兄・西樵を懐ふ) 王士槇
竹林上斜照  竹林 斜照のぼり
陋巷無車轍  陋巷 車轍なし
千里暮相思  千里 暮に相思ひ
獨對空庭雪  独り空庭の雪に対す

最後に我が国の漢詩から

 
雪が降っていた。
 窓を開けると、庭一面を真っ白に被っていた。
 その中で、背の高い木々だけが、色濃く立っている。
 これだけ積もると、出掛ける気にもならず、
 これから訪ねて来る者もあるまいと、
 一人静かに読書に耽る。
 やがて夜。
 雪は音もなく降り続き、夜も深々と更けていった。
 満ち足りた思いで本を閉じる。
 読んだばかりの世界を自分なりにまとめなおそうと、
 揺れる火影に目をやっていると、
 本を書いた昔の人の想いが、しだいにはっきりと
  はっきりと浮かび上がって来るのだった。

  
  
冬夜読書   菅茶山(かんさざん)
雪擁山堂樹影深 雪は山堂を擁して樹影深し
檐鈴不動夜沈沈 檐鈴(えんれい)かず夜沈沈
閑収乱帙思疑義 (しづ)かに乱帙(らんちつ)を収めて疑義を思ふ
一穂青燈万古心 一穂(いっすい)の青燈(せいとう)万古(ばんこ)の心

 雪は山の草庵を懐に抱くように降り、樹木の影は深い。
 軒につるした風鈴は動かず、夜は深々と更けていく。
 帙から出して散らかした書物を静かにかたづけて、
   意味のよくわからない箇所を考える。
 一穂の青い灯が遠い昔の人の心を照らし出す。
「収乱帙」とは、函から取り出して散らかした本を巻数順に並べて、また函に収めること。本を読んで、遠い昔の人の精神に触れる喜びが、静かに深く伝わってくる。

         風に揺らぐ雪片の変化を少しは楽しめたでしょうか       










・3月になって降った雪で庭もすっかり雪国の模様・